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質量分析の基礎:イオン化編、イオンアタッチメント

質量分析ってなに? シリーズの中で、揮発性(加熱して気化する性質)化合物に適したイオン化として、先ずは電子イオン化(electron ionization, EI)、そしてEIでは分子イオン(分子から電子が1つ取れたイオン)が得られず、分子内の結合が切れて断片化イオン(フラグメントイオン)が観測されてしまう場合には化学イオン化(chemical ionization, CI)が有効であると解説しました。

通常、市販されている質量分析計で、揮発性化合物に有効なのはこの2つのイオン化法ですが、今回はそれ以外の方法として、イオンアタッチメント(ion attachment, IA)を紹介します。IAは、気相分子に金属イオン(Li+)を付加させることで、フラグメントフリーのイオンが観測されるイオン化法です。

以前は、キャノンアネルバで事業化していましたが、数年前に止めてしまいました。キャノンアネルバはIA部分を開発しており、質量分析計に日本電子の四重極質量分析計を採用して、コラボしていました。そして、キャノンアネルバのIA-MSのアプリケーション担当者が、群馬大学工学部時代の同期の女性で、当時私は日本電子に居ましたが、同じ業界に大学の同期がいた事にとても驚きました♪ 彼女はまだ、キャノンアネルバに居るのかな?

 

私自身、IAは使ったことがないのですが、イオン化としてはアンモニアを試薬ガスに使うCIに近いのかなぁと思います。CIでは、主としてイオン化した試薬ガス(試薬イオン)から気化した分析種分子にプロトンが移動してプロトン付加分子([M+H]+)が生成し、IAはリチウムイオンが気化した分析種分子に付加してリチウムイオン付加分子([M+Li]+)が生成します。CIでプロトン移動により分析種分子がイオン化するのは、試薬ガスとしてメタンやイソブタンを用いた場合であり、試薬ガスとしてアンモニアを用いた場合、分析種分子にアンモニウムイオンが付加した([M+NH4]+)が主として生成します。

・揮発性化合物に有効であること

・イオン化の際にフラグメントイオンが生成し難いこと

・付加イオンが生成すること

の3点において、IAはCIと共通点があります。

 

試薬イオンと分析種分子とのプロトン移動によるイオン化では、両者のプロトン親和力が重要です。試薬イオンより分析種分子の方がプロトン親和力が高ければ、分析種分子にプロトンが付加したイオンが生成しますが、逆の場合、すなわち試薬イオンより分析種分子の方がプロトン親和力が低ければ、プロトンは移動せず、分析種分子はイオン化しません。

一方、IAやアンモニアを試薬ガスとして用いるCIでは、分析種分子にLi+やNH4+を受け取る性質があれば、分析種由来のイオンが生成するため、プロトン移動によるCIよりイオン化効率は高いと考えられます。

 

では、IAとアンモニアを試薬ガスとして用いるCIではどちらが良いのか?

 

イオン化法は、それぞれ相補的に使うものなので、何かをもってどちらが良いなどと比較する事に余り意味は無いと思いますが、同様な目的で使うのであればイオン化効率の高さは非常に重要でしょう。分析種分子に何かのイオンが直接付加することで分析種分子がイオンになる場合、その付加するイオンの反応性がイオン化効率において支配的である筈です。とすれば、Li+とNH4+のどちらが反応性が高いか? 単分子分解でない限り、反応には相手が必要なので、この場合の反応性も相手になる分析種分子との反応性という事になり、結局は相手(分析種)次第、LC/MSにおけるESIとAPCIの関係の様に、分析種の性質に応じて使い分けるという事になると考えられます。

 

現在、IAを製品として販売している企業はないですが、有用な技術なのでどこかで製品化しても良いのではないかと思います。エムエス・ソリューションズにお金があればやりたいですけどね...

 

 

 

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