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質量分析ってなに? その2

前回から始めた“質量分析ってなに?” シリーズ、その2は、イオン化について少し書いてみます。

 

質量分析は、試料である原子や分子をイオン化してその質量(正しくはm/z)を測定します。m/zについては改めて解説しますが、ここでは、簡単に“m/z=質量”とします(実際には“m/z=質量”ではありません)。原子や分子は、通常は中性の状態で存在していますので、それをイオン化しないと質量分析はできません。従って、イオン化というプロセスは、質量分析の入り口と言う事ができると思います。

 

イオン化の前に、元素と原子の関係や、原子や分子の質量について、記号や化学式を使っておさらいしておきます。現在100種類以上の元素が知られており、まだ新しい元素が発見(合成)されています。身近な元素である水素、炭素、酸素、窒素は、それぞれH, C, O, Nという記号で表します。これは元素記号と言います。元素と原子の関係については、元素は原子の種類を表すと考えれば良いでしょう。それぞれの元素には同位体が存在し、同位体によって質量が異なりますから、同位体を区別して原子を表すときには、1H, 12C, 16O, 14Nのように表します。同位体には安定同位体と放射性同位体があり、質量分析に関係するのは、通常は安定同位体です。例えば水素の同位体は1H, 2H, 3Hがありますが、安定同位体は1Hと2Hで、天然に存在する水素の99.9%以上が1Hであることは、前回も書いた通りです。

 

前回も登場した水分子とエチルアルコール分子は、原子-原子の結合を示す構造式で表すと、このようになります。

 

原子と原子を繋いでいる実線は共有結合を示し、原子がそれぞれ1つずつ電子を出し合って2つの電子で共有結合が作られます。1本線を単結合、2本線を二重結合、3本線を三重結合と呼びます。この後でイオン化について解説していきますが、イオン化のときにこの結合が切れるか切れないか、が質量分析ではとても重要です。

 

 では、イオン化について話を進めていきましょう。イオン化とは、コトバンクでは以下のように書かれています。「中性原子、分子、遊離基などが1個以上の電子を失うか、得るかしてイオンになること」

ウィキペディアには、「主に物理学の分野では荷電ともいい、分子(原子あるいは原子団)が、エネルギー(電磁波や熱)を受けて電子を放出したり、逆に外から得ることを指す」という記述があります。また、日本質量分析学会から発刊されているマススペクトロメトリー関係用語集の中では、イオン化は「質量分析においては、気相、液相、固相にある試料を、気体状の正イオンあるいは負イオンにすることを意味する」と記載されています。要するに、原子や分子に何らかのエネルギーを与えて、プラス(正)かマイナス(負)の電荷をもたせることがイオン化であり、質量分析では気体状のイオン(気相イオン)が分析対象となります。

 原子は原子核と電子から成り、原子核には通常陽子と中性子が含まれます。最も簡単な原子は水素原子(1H)であり、1個の陽子と1個の電子から成り、中性子はありません。また、最も小さな希ガスであるヘリウムには3Heと4Heの安定同位体が存在し、天然に存在するヘリウムの99.999%以上は4Heです。1H原子と4He原子の構造は、以下のようなイメージです。

 

 陽子はプラスの電荷、電子はマイナスの電荷をもっています。中性子は文字通り電気的に中性です。原子は通常、陽子と電子の電荷が釣り合っていて、電気的に中性な状態です。水素は通常原子単体では不安定なので、水素原子2つから成る水素分子(1H2)として存在しますが、ここでは話を簡単にするために、水素原子(1H)として存在できるとしておきます。これらのような電気的に中性な原子(や分子)に何等かのエネルギーを与えて、原子(や分子)が電子を1つ失うと、1価の正イオンになります。陽子と中性子の質量は約1 Da(あるいはu)で、電子の質量や陽子や中性子の質量の約1/2000ですから、電子を1つ失って生成した正イオンの質量は、もとの原子(や分子)の質量と殆ど変わらないことになります。

 

 ところで、質量分析では、何故原子や分子をイオンにするかというと、イオンにすることで、磁場や電場によって真空中を移動しているイオンの軌道を変える事ができ、そのことによってイオンの質量を測ることができるためです。この辺りの詳細については、追って説明していきます。

 

 “原子や分子にエネルギーを与えると何故電子を失うのか”については、今は考えなくて良いです。取りあえず、そーなんだ! と思って頂ければ良いかと思います。原子や分子を、電荷をもったイオンに変換することを“イオン化”と言い、そのための方法を“イオン化法”と言います。質量分析で使われているイオン化法には、実に様々な種類が、過去から現在にかけて開発されています。現在も使われていて最も伝統的なイオン化法に、“電子イオン化”があります。これは、電子によるエネルギーによって原子や分子をイオン化する方法です。

 

 次回は、電子イオン化と質量分析によって得られるデータについて解説します。

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