LC/MSにおける試料調製や前処理で重要なポイント
以前のホームページに掲載していたブログ記事を、少しずつ現在のホームページに再度掲載しています。LC/MSで頻繁に観測されるバックグランドイオンに関する記事を、少し前に3つ掲載しました。今回は、似たような内容になりますが、試料調製の際のブランク試料の重要性についてです。
LC/MSにおける試料調製や前処理として何をするか?は、試料の内容によって異なります。“溶解”、“ろ過”、“遠心分離”、“固相抽出”、“溶媒抽出”、“除タンパク”、などなど。LC/MSに供される試料は液体ですから、何等かの溶媒は必ずと言っていい程頻繁に使います。そして、溶媒を扱う時のピペッターや容器。これらは、前処理の内容に関係なく必須であると考えてよいでしょう。そしてLC/MSにおける試料調製や前処理で重要なポイントの1つは、操作に用いるこれら溶媒や容器類を使ったブランク試料を準備することです。
例えば、“固体試料を遠沈管に計りとり、超純水をピペッターで加えて溶解し遠心分離、上清をピペッターを使って吸い取り、オートサンプラーバイアルに移してキャップをする”という試料調製をするとします。ここで使うのは、遠沈管、超純水、ピペッター、オートサンプラーバイアル、キャップです。試料を使わずにこの操作を行い、ブランク試料を調製します。ここで、ブランク試料は、分析試料と同時に調製する必要があります。
先ず、ブランク試料の必要性についてですが、試料以外の夾雑成分を試料成分と区別することに他なりません。上記の方法で、ある試料を調製し、LC/MS分析したら図1のTICクロマトグラムが得られたとします。
図1 分析試料のTICクロマトグラム
そして、ブランク試料を測定したら図2のTICクロマトグラムが得られたとします。
図2 ブランク試料のTICクロマトグラム
ブランク試料のTICクロマトグラムで観測されている星印の2ピークは、分析試料のTICクロマトグラムにも観測されており、これらはブランク試料由来の夾雑成分である可能性があり、即ち試料由来の成分ではないということになります。ここで、もしブランク試料を測定しなければ、夾雑成分含めて全て試料由来の成分であると誤解してしまうかも知れず、誤った分析結果が得られてしまう可能性があります。
ここで早合点してはいけないのは、ブランク試料のTICクロマトグラムで観測されたピークは、必ずしもブランク試料由来ではない可能性があるということです。これについては、また別の機会に説明します。
また、ブランク試料を分析試料と同時に調製する必要性は、主として溶媒の純度に関係します。例えば、上記の操作で使用する超純水が超純水製造装置から採水したものだったとします。超純水製造装置から採水した超純水は、通常純度が非常に高く、採水した直後から大気中の成分が溶け込み始めます。多検体を調製するにはある程度の時間を要するので、ブランク試料と分析試料の調製に時間差があるのは仕方ないことですが、できるだけその時間差を短くする努力は必要です。違う日に調製したブランク試料を使うなどという行為が論外であることは、言うまでもありません。
LC/MS分析では、必ずブランク試料を測定しましょう。